*セネル視点
*ほのぼの切
また仕事が入った。
マリントルーパーを生業にする俺は、具体的な休みというものがない。仕事の予定表を見て、溜め息をついた。理由は一つ。
――今週も、会えそうにないからだ。
ペンを取った。山奥の村に住む恋人への手紙を書くために。今週も会いに行けないという悲しい知らせを書くために。
俺はマリントルーパーの仕事を抜け出す訳にはいかないし、山奥の生活を気に入っている彼が故郷を離れるはずもなかった。会いたい気持ちは一緒だけど、生活を壊すことはしなかった。俺が俺であるために、彼が彼でいるために。
そして遠恋が始まる。俺は暇があったら、彼の故郷を訪れた。彼も猟で手に入れた爪や毛皮を売るために、時々海辺の都市までやってきた。その時に必ず顔を見せてくれるけど、タイミング悪く俺が海に出ていることも多い。
会いたいのに、会えない。
そんな日々が何回続いただろうか。
「…………………………」
会えないなんて書きたくなくて、ペンを手放した。コロコロと机を転がる。虚しい動作だ。
リッド、お前は知ってるか。空のように果てしなく、風のように自由なお前は知らないだろう。
予定表を見つめる度に会えないツラさに溜め息を吐く憂鬱を。詰められたスケジュールをビリビリに破りたくなる衝動を。お前はきっと、知らない。
転がっていったペンを乱暴に掴むと、書きかけの手紙にそんな苛立ちを書いた。ああ、会えないことを知らせる手紙だったはずなのに。
リッド、絶対にお前が悪いわけじゃない。だけど吐き出す場所がここしかないから書きなぐるぞ。いいな。
「お前は体験したことないんだろうな、机に突っ伏す経験なんて。会いたくても会えないツラさに胸が締め付けられることなんてないよな! 絶対にないよな! 俺だけだよな!」
……ん? なんだか悪口になっていってないか。いや気のせいだ。これはストレス発散であって、悪口じゃない。と、心の中で言い訳。
ちなみに明日も早朝から海に出る。ああ、なのに俺は今夜も元気だ。
「予定表を見るたびに空いてる時間を必死に探して焦るんだ。空いた時間に何とか会おうとして、必死だけどその時間がなんだか幸せなんだ…っ! だけどその時間に仕事が入ったあの時の絶望感を、リッドは知らないだろうな!」
悪口というより、八つ当たりな気がしてきた。いい、もう気にしない。
あの何にも捕らわれない自由なリッドが憧れで、羨ましくて、ほんの少し恨めしくて。だけど大好きなんだ。やっぱり大好きだから、なぜか今大暴走。
「あいつはきっとそんな場面になっても仕方ねえよな、の一言で片付けられるよな。 また今度にするかって、そう切り替えができるんだよな。リッドはそういうやつだよな。ああ、俺は無理だ! 無理だよ、リッド。だって俺は会いたいんだ、今すぐ会いたいんだ、今、すぐ……っ!!」
書きなぐっていた文字が、自分でも読めないくらいに乱雑になった。耐えきれなくて、ペンを置いた。
キレてる時はいいんだ。感情のままに怒鳴ってる時は。ただ、その後。すべてを吐き出したその後。
……泣きそうになるのが、嫌なんだ。
「リッド……俺は、お前が羨ましい」
恋人になってから、この台詞を何度繰り返したことか。あいつの性格の希少価値は素晴らしいと心から思う。あんな風になれたら人生変わるだろうなとも。
だけどやっぱり俺は俺で、リッドはリッド。俺が俺だったから、俺はリッドを好きになったんだ。それは変わらない事実だ。
ああ、やっぱり会いたい。結局、結論はこうなんだ。
「リッド……」
俺は力なく座って、乱雑な八つ当たりの残骸を見つめた。乾いた笑いが溢れた。
「俺は、この予定表が憎い。でも……お前はきっと憎しみなんか抱かないんだろうな」
「ああ、だろうな」
後ろから声をかけられて、肩がビクッと震えた。振り返る前に、肩に顎を乗せられる。乱雑な文字を見て、彼は――リッドは笑った。
「だって俺、憎む前に会いに来るからさ」
にこやかに告げられて、悔しさに肩が震えた。愛しさに涙腺が緩んだ。なんでこんなタイミングでここにいるんだよ、お前は。不法侵入だ。
「リッド……?」
後ろから腕が身体に回されて、その温かさに身体が震えた。ああ、リッドがいる。リッドが、ここにいる。
最悪だ、明日は朝から海に出るのに。泣くのはあれだけ嫌だったのに。
「会いたかったんだ……!」
忌々しい予定表に、今日は色を付けてみよう。リッドが俺に会いに来てくれた日だから。
「ああ、俺も」
頭をゆっくり撫でられて、俺は静かに瞳を閉じた。今はこの幸せに浸りたかったんだ。
憂鬱カレンダー
(もっともっとこの予定表が)
(色鮮やかに染まるように)
(そう、願ったんだ)
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梨亜が絶賛Eプレイ中なので、勢いのままセネルinインフェリアみたいになってしまったwww 企画提出文だというのになんて特殊設定!
ならセネセネがいるのはミンツ辺りかしら? うわお、セネルに会うためだけに川下りするリッド萌え。