恋は盲目、と人は言う。
鈍感で色恋沙汰に疎く本人の自覚が無いにしても、端から見れば一目瞭然なんて事もまた無きにしもあらず。
これは、日常茶飯に平然と盲目フィルターをかけてしまう程、青い春を無自覚に謳歌していた頃の、そんな話。
『思いを馳せるは白』
依頼に出ていない分、いいかげん溜まりに溜まっている洗濯物の山を片付けろと遠回しに言われ、まずは仕分けからかと山を崩している時の事だった。
どう見ても自分では着ないようなカッターシャツが一枚。
なにしろ大所帯なこのギルドだ。確かに別のやつの服が紛れ込む事はたまにある。
「…だからって、何でスパーダのなんだよ」
吐き出した言葉は嫌悪のそれじゃない。わざとでは無いだろうが、今このタイミングであの緑色を思い出させるような真似をするなんて酷というもんじゃないだろうか?
(…もう一週間になるのか)
ラザリスに関する調査だといってディセンダーと霊峰アブソールへ行ったあいつ。普段ならセット扱いみたく同行依頼が来るはずが、今回は特殊な環境だからと俺は留守番。メンバー編成一つで依頼の達成にも影響が出るから仕方が無い事だと分かってはいるが…。
「…スパーダ」
型崩れも気にせずにシャツを抱けば、柔らかな陽光とさっぱりした洗濯石鹸の香り。それとは別に、あいつのにおいが胸を締め付ける。
らしくない。だけど、凄く、
「会いた―――」
「おーっす、今帰ったぜ!」
センチメンタルな余韻もなく、開け放たれた扉。手にしていたシャツが床に落ちる。
場の空気が固まったような錯覚。
見られた、…間違いなく見られたよな。
何か言わなくては、と言葉を探せど動揺しきった頭じゃ適当な言い訳も何も出てこなく、言葉に詰まった。
まだ冗談めかして向こうから切り出してくれれば気が楽だったが、スパーダは微動だにしない。
「スパ、」
「お前さぁ、何かわいい事してやがんだよ?アァ?」
距離をあっという間に縮められ、あれよあれよとしたたかに打ち付けられた背中。
近距離、耳元での囁き、ニタリと笑う薄墨色。
帰還してすぐに俺のところへ来たのか、雪と血が混じったようなにおいが鼻をくすぐる。どことなくかすり傷が目立つのも、きっとそのせい。
「…可愛いくはないだろ」
「だってよォ、まさか俺の服でヌこうとしてる最中に鉢合わせなんざ、ラッキーじゃね?」
「は!?」
勘違いだと、はっきりと言ってやればよかったものを、久方の再会と背中に敷かれた白いシャツと赤い色に、抑えていたタガを持っていかれたような気がして、
「お前だって、…溜まってたんだろ?」
「ア?よーく分かってンじゃねえか」
服の上から指先で愛しい熱を焦らすように撫で、わざとらしく唇を一舐め。息を飲み歪む薄墨色の表情がたまらない。このままキスして、がっつり美味しく頂かれても悪くない、なんて思ってしまう辺り、人のことを言えたもんじゃないなと内心苦笑い。
「まぁ…一週間分、楽しませてくれ」
「はっ、一週間どころかそれ以上に可愛がってやっから覚悟しろよ」
次の出動要請までの、長いのか短いのかさえ分からない曖昧な時間、少しでも隙間を埋めていたくて、お互いがお互いを求めるようにして陽は段々と落ちていく。
〆
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企画が第2期突入との事で、またまた(セネ)スパセネを投稿させて頂きました。
これからもセネル受が広まると信じて…!