ハティと無事和解し、セネルのこれから住む家が決まった日のことだ。
「寂しくなるな」
すっかり片付けられた部屋を見て思わず呟く。
今部屋にあるモノと言えば、元から備え付けていたベッドと小さな机くらいだ。
隅にはダンボールが数個のみ
元々セネルの私物は少なかったため、引越しの為の荷造りは一日と掛からずに済んでしまった。
また、それこそがセネルがこの家に居た時間の少なさを象徴しているように思える。
「何言ってるんだよ」
感慨に耽るウィルに対し、セネルが呆れ交じりの声を出した。
この家にはもうすぐハリエットがやってくる。
新たな住人が来るのに寂しいはないだろう。
「ここは喜べよ。ハティが悲しむぞ?」
やっと親子水入らずの生活が出来るのだ。
自分のことなどより、たった一人の愛娘を喜んで迎えてやらねばきっと彼女は拗ねてしまう。
「しかし、」
反対にセネルを追い出すような形になってしまった。
そのことにウィルは多少の罪悪感を抱いている。
しかし、鈍い、鈍感だと言われるセネルとて、そこに割って入ろうとするほど無粋ではない。
「俺としては居てもらって構わんのだが。むしろ助かる。
きっとハリエットもお前なら納得するだろう」
「そんなに引き止められると俺も出て行きづらくなるじゃないか」
「なら此処に居ればいい」
「…俺が自分で決めたことだ。
元々、すぐに出るつもりだったし、一人にも慣れてる」
そこでウィルが大きく顔をしかめた。
「そういう事をそんなにあっさり言うものじゃない」
一人だなんて、
「お前には俺が居るだろう」
「なんだ、その台詞」
突如飛び出した台詞はやけにむず痒い。思わず言葉に詰まってしまう。
冗談かとも思ったがそんな雰囲気でもなかった。
結局それをどう受け取ればいいやら迷いに迷って、
「そうだった。ごめん」
と素直に受け取った。
すると今度はウィルの方が言葉に詰まる番の様だ。
その様子に思わず破顔してしまう。
「先にお前が言ったことなのに」
見ると苦かった顔が益々苦くなる。
「お前から実際にそんな風に返ってくるとは思わだろう」
そう言って目が逸れる。
それから言葉を濁すようにしながら、
「お前が分かったならそれでいい」
と多少乱雑に頭を掻き混ぜられた。
手と違い、やけに声が優しく聞こえるのは幻聴か。
「いつでも帰って来ていいんだからな」
不意打ちのように続いたその言葉に思わず目を細めた。
「帰ってくる」という言葉は、この家にはもう居ないということが前提じゃ無いと出てこない。
改めてもうここから出て行くと言う事を自覚する
今更、出て行くのを止める気はない。
長い間大きく開いていた溝が埋まった家族がやっと幸せに暮らせる。
ならそれに越したことはないし、そこに水を差す気もなかった。
しかし靄が掛かったような感情が底に秘める。
それがなんなのかはよく分からない。でも表に出してはいけない気がする。
つん、と鼻の奥が痛むような気がした。
「セネル?」
急に黙ったせいか、ウィルから案じるような声が掛かった。
はっとしてすぐに声を出す。
「帰ってくるわけないだろう」
子供じゃあるまいし。
そう冗談めかしながら言って笑った。
−END−
なんだかちょっと湿っぽくなってしまいました…
実はL絡みでは一番好きなCPです。
カップリングというよりはプラスに近い感じにはなりましたがウィルが『俺たち』じゃなくて『俺が』って言った辺りにカップリング要素を感じて下されば幸い。
(私の)心の中では相思相愛です
もういつ結婚してもおかしくないかと←
では長くなりましたがこれにてっ